なんでゲーム内で登録商標になってる商品名を避けるのかな

ロスジェネ雑記

前職時代に気になっていたこととして、「登録商標になっている商品名やサービス名をゲーム内に出さない方がいい」っていう暗黙の了解みたいなのがあったんですよ(※1)。

でもその理由が良く分からなかった。だって、登録商標っていうのは「特定の商品やサービスの名称を、特定の登録分野で独占的に利用するためのもの」のだって思ってたから。商標権を持ってる人が手間とお金をかけて価値を上げ顧客からの信頼を勝ち取ってきた商品やサービスの名称を、赤の他人が勝手に使ってタダ乗りしちゃあかんでしょっていうイメージ。

たとえば海岸で見かける消波ブロック『テトラポッド』は株式会社不動テトラさんの登録商標ですよね。

調べてみると「金属製でない建築材料」や「卑金属及びその製品」っていう分野で登録されていることが分かります。具体的には「コンクリート製四脚ブロック」とか「金属製コンクリートブロック成形用型枠」とか、他にも色々(※2)。

これにより「適当に作ったコンクリートブロックを不動テトラさんの信用にタダ乗りして顧客に売ったろ!」みたいな人を排除できるって理解でいいんですよね。全く同じ名称はもちろん似たような名称も勝手に使っちゃダメだし(『テトラポッ』とか)、消波ブロックじゃなきゃ大丈夫なのかと無理やり「これは『テトラポッド』っていう名前の灯籠です!」って言い張っても分野が似てるから多分ダメ。

逆に、「波消しくん2号(※3)」みたいな全く似てない名前でコンクリート製の消波ブロックを売ったりしてもそれは商標権侵害とはならないし、全く同じ『テトラポッド』っていう名前の商品でも全然関係ない分野で売ればそれもまた商標権侵害とはならない。実際に「手動工具」っていう分野で『テトラポッド』を商標登録してる人がいるけど、株式会社不動テトラさんは関知しないんでしょう(※4)。

ここまではわいも分かる。でもこれだけだと『テトラポッド』っていう登録商標をゲームの中に出さないほうがいい理由が分からない。だってゲーム内でキャラクターが「海だ!テトラポッドたくさんある!」とか発言したとしても、ゲーム制作者は『テトラポッド』という名称が持つ価値にタダ乗りして何かを売りたいわけじゃないし、商標権侵害とは言えないと思うから…。

もちろん、ゲーム内でテトラポッドの商品価値を貶めるような表現をしていたら商標権侵害とは別の問題が生じるので、そういうことはしてないって設定でよろしく。

で、こないだ商標についてまた調べてたら商標の希釈化っていう話題があって、あーこれが関係してるのかなーって思ったの。

どういうことかというと、以下の様なプロセスを経てせっかくの登録商標が無価値になってしまうことを言うみたい。

ある商品やサービスの名称が、人気上昇と共に有名になって、色んな人が日常の会話内でも使い始めることがある。これ自体はその商品やサービスが広く普及したという意味で良いことだし、別に商標権の侵害でもない。

しかし、あまりにその名称が普通に使われすぎると、次第にその名称が「自分の商品やサービスをライバルのものと区別する」という機能を失っていく(希釈化)。

この事態がさらに進むと、遂にはその名称に価値がなくなり、登録商標として認められなくなる(普通名称化)。

これについて調べてたら弁理士さんのブログで面白い例が書かれてました→ 日常で、商標の希釈化・普通名称化を感じたお話。

「ホカロン買ってきてー」って頼んだのに別ブランド品を買ってこられて「まあどれも似たようなもんだし暖かいからいいか…」みたいな状態になってると、「ライバル商品と区別するという機能がかなり失われている」ってことになる感じでしょうか。

普通名称化してしまった登録商標の例としては『エスカレーター』があるそうです(Wikipedia)。昔は「動く階段」みたいな機械の名称として色んなものがあって、その中でも有名ブランドの商品が『エスカレーター』だったんでしょう。でも今はそういう「ライバルの商品と区別する」機能は消えて、階段式昇降機はぜーんぶ『エスカレーター』ですわね。

せっかく手間とお金をかけて価値を上げてきた登録商標が普通名称化しちゃったら困るから、商標権を持ってる人はなんとかそれを防ごうと「ちょっとちょっと、うちの登録商標を普通名称の様に使ってもらっちゃ困るよ」と申し入れたり、「ちょっとちょっと、うちの登録商標を表示する場合には、”これは登録商標ですよ”っていう注意書きを入れたり®マークを付けてたりして、普通名称と勘違いされないようにしてよ」って指示したりするし、そういう努力を怠っていると「登録商標を適切に管理してない」って評価を受けちゃうこともあるそうな。

商標の普通名称化の防止 | 商標登録「スマート商標」
商標の普通名称化とは、「商標として識別力を有するものであっても、多数の者に使用されることによって識別力が弱まり、商品の出所を示す商標としてではなく一定の商品を示す普通名称として認識されるようになる場合」(「三省堂 知的財産権辞典」より引用)とされています。 商標権を所有...

PCの説明書末尾とかに書いてある「Windows® はマイクロソフトの登録商標です」的な表記はこれかー感ある。

さあ、ここまで来てやっとゲームの話に戻ると「ゲーム内で登録商標があたかも普通名称であるかの様に表現されていると希釈化を招いてしまうから、商標権を持ってる人から”ちょっとちょっと”と言われる可能性がありますよ、だから避けといた方がいいですよ」ってことなのね!とわいは思いました。なるほどなー。

希釈化を避けるための工夫として、ヒロインのセリフを「ねえ、オセロ®しようよ(※5)」みたいに®マーク付けて表記するっていうのも考えたけどストーリーへの没入感ゼロだし声優さんもどう発音していいか分からないだろうし、無理そう。

とりあえずわいは長年の疑問に自分なりの答えが出てスッキリした。でもここから更に「こういう場合はどうなんだろう?」「他にもこういう事情があるのでは?」とか考えると更に長くなるから(※6)、とりあえず今日はここまで。

ゲームとかマンガとかアニメとか映画とかで登録商標を登場させたいと考えてる人はこの記事だけを参考にしたりせず弁護士さんか弁理士さんに相談してみてね!

 

※1:登録されていない商標であっても、この記事内で書いた希釈化の問題は生じる場合があるそうです(こちらのページを参照)。
※2:ちょっと驚いたのは、不動テトラさんは「紙類,文房具類」っていう分野でも『テトラポッド』を商標登録してたこと。どんな文房具だろうと思って調べてみたらテトラポッドの形した消しゴムとかあるの。かわいい。作ってるのはサンスター文具さんなので、不動テトラさんの許可を得て作ってるのかな。
※3:念のため「波消しくん2号」っていう名前の消波ブロックがないかどうか調べてみたら、消波ブロックはないけど左官職人さんが壁を塗るのに使うコテで同名の商品がありました。しかも22号までありました。調べてみるもんだ。
※4:商標権侵害は無いという意味でこの様に書きましたが、有名な商標と同じ名称を全然関係ない分野に登録することにより有名な商標の希釈化を招くことがあり、そういう場合は商標権者から「ちょっとちょっと」と言われることがあるんでしょうね(こちらのページを参照)。
※5:登録商標の『オセロ』を避けて「リバーシ」と言い換えたことは前職でもありました。でもオセロのルールとリバーシのルールは厳密には異なるらしい…。あんまり深く考えない方がいいのかな。
※6:歌詞の中で登録商標を出しつつ歌詞として「今のは登録商標です」って歌う場合はOKなのかとか、NHKは多分「公共放送として特定の商品の宣伝になることを避ける」っていう事情があるだろうし民放は多分「広告費もらってないのに特定の商品の宣伝になっちゃうと他のスポンサーから怒られる」っていう事情があるんだろうとか、そういう。

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